住宅性能ガイド快適で省エネな家づくり
快適で省エネな家づくり
断熱・気密性能の基礎知識
UA値やC値の意味から断熱材の選び方まで、
快適で省エネな住まいづくりのポイントを専門家が解説します。
初めての方へ:断熱・気密って何?
断熱性能とは?
冬の暖かさや夏の涼しさを保つ力のこと。セーターを着ると暖かいのと同じ原理です。
- • 暖房・冷房費が安くなる
- • 部屋ごとの温度差が少ない
- • ヒートショックを防げる
気密性能とは?
家の隙間の少なさのこと。ビニール袋の口を閉じると中の空気が逃げないのと同じです。
- • 隙間風が入らない
- • 計画的な換気ができる
- • 音が漏れにくい
ポイント:断熱と気密はセットで考えましょう。 いくら厚いセーター(断熱)を着ても、前が開いていたら(気密が悪い)寒いですよね。
断熱性能の基準(UA値)
外皮平均熱貫流率(UA値)が小さいほど断熱性能が高くなります
初心者の方へ:UA値は「家から熱が逃げる速さ」を表す数値です。 例えば、UA値0.87なら「普通の家」、0.46なら「魔法瓶のような家」をイメージしてください。 数値が小さいほど、夏涼しく冬暖かい家になります。
省エネ基準(2025年4月1日義務化済)
2025年4月1日より義務化された最低基準(建築物省エネ法)
UA値(4-6地域)
0.87
特徴
- 建築基準法での義務化基準
- 最低限の省エネ性能
- 光熱費削減効果は限定的
- 夏冬の快適性に課題あり
おすすめの人
法的基準をクリアしたい方
追加費用
標準
ZEH基準
ゼロエネルギーハウスの基準
UA値(4-6地域)
0.60
特徴
- ZEH住宅の認定基準
- 省エネ補助金の対象
- 太陽光発電と組み合わせでゼロエネ実現
- 光熱費の大幅削減が可能
おすすめの人
省エネ・環境配慮を重視する方
追加費用
標準より50-100万円UP
HEAT20 G1
暖房エネルギーを大幅削減
UA値(4-6地域)
0.48
特徴
- 省エネ基準より30~35%の暖冷房エネルギー削減 ※国土交通省「HEAT20 G1水準性能評価(2023年)」
- 15℃を下回らない室温維持
- 快適性と省エネ性のバランス
- 結露リスクの大幅軽減
おすすめの人
快適性と省エネ性を両立したい方
追加費用
標準より100-150万円UP
HEAT20 G2
非常に高い断熱性能
UA値(4-6地域)
0.34
特徴
- 省エネ基準より50~55%の暖冷房エネルギー削減 ※国土交通省「HEAT20 G2水準性能評価(2023年)」
- 13℃を下回らない室温維持
- 無暖房でも快適な室温
- 結露の心配がほとんどない
おすすめの人
最高レベルの快適性を求める方
追加費用
標準より150-250万円UP
断熱材の種類と特徴
用途と予算に応じて最適な断熱材を選びましょう
繊維系断熱材
グラスウール
熱伝導率: 0.050-0.038安価格
メリット
- 安価
- 防火性
- 施工性が良い
- 長期安定性
注意点
- 湿気に弱い
- 施工精度で性能差
- 沈下の可能性
充填断熱
ロックウール
熱伝導率: 0.038-0.043中価格
メリット
- 防火性に優れる
- 防音性
- 耐久性
- 害虫に強い
注意点
- 価格がやや高い
- 湿気対策必要
- 施工技術要
充填断熱
セルロースファイバー
熱伝導率: 0.040高価格
メリット
- 調湿性
- 防音性
- 防虫効果
- 環境配慮
注意点
- 価格が高い
- 沈下リスク
- 専門施工必要
充填断熱
発泡プラスチック系
ウレタンフォーム
熱伝導率: 0.024-0.040高価格
メリット
- 断熱性が高い
- 気密性
- 現場発泡可能
- 隙間なし
注意点
- 価格が高い
- 燃焼時有毒ガス
- 紫外線に弱い
充填・外張り
ポリスチレンフォーム
熱伝導率: 0.028-0.040中価格
メリット
- 軽量
- 加工しやすい
- 耐水性
- 安価
注意点
- 燃えやすい
- 有機溶剤に弱い
- 熱に弱い
基礎・外張り
フェノールフォーム
熱伝導率: 0.020-0.022最高価格
メリット
- 断熱性能最高
- 難燃性
- 有毒ガス少
- 長期安定
注意点
- 価格が非常に高い
- 施工精度要
- 欠損しやすい
外張り
断熱工法の比較
断熱材をどこに設置するかで性能とコストが変わります
充填断熱工法
柱や間柱の間に断熱材を充填
コスト: 安性能: 中
メリット
- 施工コストが安い
- 一般的な工法で職人が慣れている
- 断熱材の選択肢が多い
- 厚い断熱材を使用可能
デメリット
- 熱橋(ヒートブリッジ)が発生
- 施工精度で性能が左右される
- 配管・配線で断熱欠損
- 結露リスクがある
外張り断熱工法
構造体の外側に断熱材を張る
コスト: 高性能: 高
メリット
- 熱橋を防げる
- 構造体を保護
- 室内側に断熱欠損なし
- 結露リスクが低い
デメリット
- 施工コストが高い
- 外壁の納まりが複雑
- 断熱材の選択肢が限定的
- 施工技術が必要
付加断熱工法
充填断熱と外張り断熱の併用
コスト: 最高性能: 最高
メリット
- 最高レベルの断熱性能
- 熱橋を完全に防げる
- 結露リスクが最小
- HEAT20 G2レベル達成可能
デメリット
- 施工コストが最も高い
- 壁厚が厚くなる
- 高度な施工技術必要
- 設計の複雑化
プロが教える
断熱施工の技術的ポイント
設計事務所や現場監督が実践する高度な技術情報
熱橋(ヒートブリッジ)の完全遮断技術
木造住宅の熱橋発生箇所
- •構造材(柱・梁): 全熱損失の15-20%を占める
- •金物接合部: 局所的に-5℃の温度低下(結露リスク大)
- •基礎と土台の取り合い: 断熱欠損率30%の箇所
プロの対策技術
- • 付加断熱工法: 構造体の外側に50mm以上の断熱層追加
- • 断熱補強材: 金物周囲に発泡ウレタン充填(熱伝導率0.026W/mK)
- • 基礎断熱: 内断熱+外断熱の併用で熱橋を完全遮断
- • サーモグラフィー検査: 施工後の熱橋確認(5万円/回)
防湿層施工の「教科書に載らない」テクニック
内部結露の実態
- •築10年で約40%の住宅に内部結露が発生
- •防湿シートのピンホール1個で年間2Lの水分侵入
- •コンセント・スイッチ周りの気密処理不良が80%
プロの施工手順
- 可変透湿気密シート(インテロ等)の採用
- シート重ね代150mm以上+気密テープ2重貼り
- 配線・配管貫通部は気密パッキン+コーキング
- スイッチボックスは気密型(パナソニックWTF7003等)
- 施工後の減圧法による漏気チェック
2025年最新の高性能断熱技術
エアロゲル断熱材
- •熱伝導率0.013W/mK(グラスウールの1/3)
- •厚さ10mmでグラスウール30mm相当の性能
- •価格: 15,000円/㎡(2025年現在)
PCM(相変化材料)断熱
- •23℃で相変化し蓄熱量200kJ/kg
- •室温変動を±2℃以内に抑制
- •石膏ボードに内蔵で施工性良好
業界関係者が語る
「本当の断熱性能」の見極め方
カタログ値と実測値の「不都合な真実」
某大手ハウスメーカーA社の実態
- • カタログUA値: 0.46
- • 実測UA値: 0.68(48%劣化)
- • 主な原因: 熱橋無視、施工精度不足、換気による熱損失過小評価
高気密を謳う工務店B社の実績
- • 契約時のC値保証: 1.0以下
- • 中間検査時: 0.8
- • 完成時実測: 2.3(配管工事で悪化)
プロのアドバイス:契約書に「完成時C値○○以下保証」と「未達成時の改修義務」を明記させましょう。 費用は10-20万円増でも、確実な性能確保には必須です。
断熱材メーカーが教えない「経年劣化」の実態
断熱材 | 初期性能 | 10年後 | 実質劣化率 |
---|---|---|---|
グラスウール(防湿不良) | 0.038 | 0.065 | 71%悪化 |
吹付ウレタン(密度30kg) | 0.034 | 0.042 | 24%悪化 |
フェノールフォーム | 0.020 | 0.022 | 10%悪化 |
裏技:築10年以上の同一工法物件の見学を要求。サーモグラフィー持参で性能劣化を確認できます。
2025年最新の性能診断技術
AI熱画像診断システム
診断費用: 8万円~- ドローン搭載赤外線カメラで全面撮影
- AIが熱橋・断熱欠損を自動検出
- 改修優先順位と費用対効果を算出
q-Bot熱流計測ロボット
診断費用: 15万円~- 床下・小屋裏を自走して計測
- 実測U値をリアルタイムマッピング
- 湿度・カビリスクも同時診断
気密性能(C値)の重要性
断熱性能を活かすには気密性能も重要です
計画換気の効果
気密性能が低いと換気システムが正常に機能しない
- 隙間風で換気バランスが崩れる
- 汚れた空気の排出ができない
- 新鮮な空気の取り入れが不十分
- 換気システムの電力効率低下
断熱性能の発揮
隙間があると断熱材の性能が発揮されない
- 隙間からの熱損失が大きい
- 断熱材の効果が半減
- 暖冷房効率の低下
- 光熱費の増加
結露・カビの防止
気密性能の向上で結露リスクを軽減
- 壁体内結露の防止
- カビ・ダニの発生抑制
- 建物の長寿命化
- 健康被害の回避
快適性の向上
ドラフト(隙間風)がない快適な空間
- 室温のムラがない
- 足元の冷えがない
- 静かな住環境
- エアコンの効きが良い
C値の目安と実測データ
家全体の隙間を1つにまとめた時の大きさ(c㎡/㎡は1㎡あたりの隙間面積)
5.0
一般的な住宅
隙間風あり
2.0
省エネ住宅
まずまず
1.0
高気密住宅
理想的
実測データから見る真実
- • 大手ハウスメーカー平均: C値2.8(カタログ値1.0)
- • 地域工務店(高気密仕様): C値0.5-0.8
- • パッシブハウス基準: C値0.2以下
- • 測定費用3-5万円は必須投資